包丁を研ぐ。キッチンワークの中でも難易度の高い作業と言うイメージがあります。一度トライしたけれどうまくいかずに砥石をしまいっぱなし、という方もいらっしゃるのでは?
しかしスパッと切れ味鋭い包丁は、美しい料理を作るには欠かせません。この難問解決のために、包丁のプロに研ぎのコツを聞いてみました。
教えてくれたのは、創業から223年の老舗『株式会社 木屋』の小峰裕太さん。想像以上に簡単で、一度やり方を覚えれば、鼻歌交じりで楽しくできる包丁研ぎ。ぜひ覚えたい家事のひとつです。お料理の下ごしらえが格段に楽しくなるはず!

<木屋> 木屋特選 中砥石 2,808円(税込)
まず、小峰さんに包丁が切れなくなる理由を聞いてみました。
まな板とぶつかる衝撃が刃先を丸くしている
「包丁がまな板にぶつかると衝撃によって、徐々に刃が丸くなってしまうので、どうしても切れ味が落ちてしまいます。りんごの皮むきとか、牛蒡のささがきのようにまな板を使わないで、空中で切ったりむいたりする作業では、衝撃がないので刃先が丸くなることは、ほとんどありません」
包丁が切れなくなったサインとは
「切れ味が落ちた目安は、トマトがつぶれてしまって切りにくくなったとか、玉ねぎが目にしみるようになった、というのが一番わかりやすいですね。切れない包丁は玉ねぎの繊維を切らずにつぶしているだけなので、目にジンジン来て涙が出るというわけです。そうなったらすぐに包丁を研ぐ必要があります」
包丁を研ぐとは、金属をシャープに削ること
「ご家庭では簡易版の『包丁研ぎ器』で研いでいる方が多いと思いますが、研ぎ器と砥石では効果が全く違います。多くの研ぎ器は2ヵ所の溝にシャシャッと包丁の刃を通して使いますが、あれは包丁の刃を『こする』だけなんです。でも、砥石は刃先を『削る』作業なので、全く別の工程。そのため、研ぎ器を使用すると一時的に切れ味は回復しますが、すぐにまた切れなくなります」
では砥石で包丁を研いでみましょう。プロの研ぎ師や料理人さんは、3~4種類の砥石を使って仕上げますが、家庭では「中砥石」ひとつで十分とのこと。今回はポピュラーなステンレスの三徳包丁を研いでいきます。
さぁ、砥石で研いでみましょう
1. 流し台などの上に濡らした布を敷き、その上にたっぷり濡らした砥石を置く。包丁は砥石に対して45度の角度に置き、写真のように包丁の背の部分「峰」を4~5ミリほど上げた状態にする。刃の部分に3本の指を添え手前と奥にリズミカルに動かす。
「この『刃先の角度』と、『背の部分を浮かせたまま研ぐこと』が重要なので、ゆっくり手前と奥に動かしてください。この動作に慣れれば、もっと早くリズミカルにできるようになります」
削った部分がめくれた「カエリ」が出れば研げた証拠
2. 研いでいくと刃先に「カエリ」と呼ばれる金属がめくれたような部分ができるので、指で触って確認してください。これは刃先が研げた証拠なので、場所をずらしながら刃先から切っ先まできちんと研ぐこと。作業で出てきた砥石と金属の粉はこまめに水で流します。
「刃を4分割にするイメージで、順次位置をずらしながら研ぐと良いでしょう。研ぐ順番は刃元からでも切っ先からでも、どちらでも大丈夫です。
裏側は表よりも軽く研いで仕上げる
3. 表側が終わったら包丁の裏側も同様に研いでいく。仕上げに砥石に付属されている木台に刃を当てて軽く引き、刃の裏表にある金属の「カエリ」を取り去る。めくれた部分がスムーズになればOK。最後に包丁を水洗いして、刃と柄の水分を拭き取って完了。
高級な包丁と、安い包丁の大きな違いとは?
砥石で包丁を研ぐと、値段の高い包丁はもちろん、リーズナブルな価格のものでも切れ味が見事に回復するそうです。でも……。
「高いものも安いものも、研いだ後は切れ味が出ますが、持ちのよさに大きな違いが出てきます。高級な包丁のほうが切れ味の良さが長く持つんですよね。安いものはすぐに切れなくなるので、こまめに研がなくてなりません。そうすると、どんどん刃が減って細くなってしまうので、使いにくくなるんです」
献立を作る前に、さぁ研ぎましょう!
研ぎ器があれば十分、と考えていた包丁研ぎ。取材を終えて、いままでは包丁をこすっていただけと知り、びっくり。昔から日本人に愛されていた生活の道具がどんどん簡易化されていますが、老舗の包丁屋さんが推奨する包丁研ぎは、料理好きの方にはぜひ実践していただきたいと思いました。
「特に日本人が好きな和食は、多くが野菜の料理ですからね。包丁に切れ味があったほうが、料理のきれいさも味も全然違ってきます」
「これ、おいしいね」と、家族に褒められるためにも、シュッシュッと包丁を磨き上げる習慣を始めてみませんか。